A・S・H・I・O・T・O 怖い話
1人きりで、薄暗い部屋や倉庫などに行くと、自分の足音が周りに反響し、大きく聞こえてきたり、物音に敏感になります。
さらに、電話の音や携帯の振動など・・・普段は、怖いとは感じない音なのに、場所によっては、怖い音に聞こえてしまいます。
音は、耳で聞くだけだと、想像力が働くことから、どんなに普通の音であったとしても、怖いイメージを抱いてしまうことによって、怖い音としか聞こえなくなってしまうものなんです。
そして、何より怖い音なのが、何の音なのかわからないもの。身の回りでは感じられない音は、異音にしか聞こえません。何の音なのか、気になるけれど、怖くて原因をつきとめられない。何が原因で鳴る音なのか?わかっているのと、わからないのとでは、イメージがまったく変わってしまうのです。
--足音-- KOWAI KOWAI*
いつもの仕事場。今日は、休日出勤。出勤しているのは、ほんの数人。いつもは狭い事務所も、なんだか今日は広く感じます。
それに、トイレまでの道のりも妙に長く感じます。
外は、雨。
事務所の中は、明かりをつけないと作業ができないほどに薄暗く、わずかに寒い。
ひんやりとした空気が流れるのもいつものこと。
事務所の中は、無機質なパソコンの動く機械音と、キーボードを叩く音だけ。
社員の1人がトイレに立つ。
・・・・・・・・・・・・・廊下に、彼女の足音が響く。
そして・・・彼女が戻ってくる。
「あれ・・・・?」
「どうかしました?」
「今、誰か・・・休憩所にいなかった?」
「え・・・? 誰もいませんよ?」
実は、この会社は、トイレと休憩所が他の事務所との共同になっていて、事務所から少し離れた場所にある。
ただ、この日は、休日であるため、他の会社の社員は、出勤していない。
トイレに行く通路向かいに、休憩所がある。
休憩所といっても、大きな衝立ひとつで区切られているだけの空間であり・・・完全に仕切られているわけではないのだ。
「トイレから、出てきたら・・・・休憩所で、誰かが パタパタ と足音を鳴らしているのが聞こえたの。 だから、誰かいるんだなと思って、のぞかないで戻ってきたんだけど、誰もいないって言うじゃない?」
「ええ・・・。誰もいないはずですよ。」
「じゃあ・・・あの音って、なんだったのかな・・・」
そんな話を聞きつけた他の社員が、その場所を確かめに行ってみたが、そこには、人の気配はなかった。
「誰もいなかったですね」
「きっと、空耳か、何かですよ。」とその時は、気にしないようにして過ごしていました。
そして、トイレに行きたくなってしまった私。
もう夕方になる。ドキドキしながら・・・その場を通り過ぎる。
トイレから出るが、何事も起こらない。
「なんだ・・・なんともないじゃない・・・」
そう思った瞬間!
公衆電話のベルが、リンリンと鳴り出す。
「いったい・・・何??なんなの??」
恐怖心だけで、その電話に出る勇気はなく、急いで事務所に戻る
「ねぇ・・・公衆電話のベルが鳴ってるの・・・」
その音を聞きつけ、電話に出ようと走るが、出ようとした瞬間に、ベル音は消えた・・・・。
「この事務所、なんか・・・おかしいよ!」
そのうちの1人が、実は・・・といって、以前あったことを話しだした。
「この間・・・そこのテーブルに、キレイな女の人がいたの見たんだよね。
ここってさ・・・休日と5時以降の時間って、テーブルのほうって、入れないことになってるじゃない?」
----実際、休憩所の反対側にある、フリールームのテーブルから向こう側は、防犯のため、時間によって立ち入り禁止になっているのだ。
そこに人が入ると、警報がなり、セコムの警備員がくるような形になっているので、鎖がかかっていることが多い。
「最初は、そこに人がいるのを不思議に感じなかったんだ。でも、よく考えてみたら、入ったらダメなんじゃないか?って」
「だから、事務所から引き返して、そこに向かったんだ。ダメだってことを伝えるのに・・・。」
「でも、もう・・・・そこには誰もいなかった。」
「自分しか見てないし、それが本当に人だったかどうか・・・わからなかったから、誰にもいえなかったんだよね」
それから・・・・数日たった。
同じように、休日出勤の日だった。
その日は、他に誰かがいるわけでもなく、1人きりだった
噂が広がり、最近では、休日出勤する人や夜遅い時間まで、1人で過ごす人が減っている。
でも、仕上げなければならない仕事があると、やはり出勤しなければならない。
出勤したくなくても、出勤しなければならない状況は変わらない。
その代わり、早い時間で帰るつもりだった。・・・あの時間の前には帰ろうと・・・。
いつもなら、事務所のドアを開けっ放しにしているのだが・・・今日は、開けているほうが怖いと感じる。
誰もいないはずの廊下から、足音が聞こえてきたら・・・と思うと、閉めずにはいられなかった。
トイレに行く度に、自分の足音にビックリする。
コツーン コツーン コツーン コツーン
ふと・・・・立ち止まってみる。
・・・・・鳴り響く足音は・・・・止まらない・・・・・。
自分の足音ではない。誰かが トイレのほうから近づいてくる・・・。
急いで事務所に戻る。
何かが近づいてくる!!! そういえば、彼は、女の人を見たと言っていた。
足音は、なおも近づいてくる。何が近づいてくるのか・・・・そんなこと、どうでもよかった。
事務所のドアを開けようとするが・・・・・なぜか?開かない!」
「なんで・・・なんで、開かないのよ!!」
足音は・・・どんどん大きくなって、近づいてくる
ドアのノブをガチャガチャと回す。
「なんで・・・開かないの!?」
「開いて!!!!」
自分のすぐ後ろで、足音が止まる。
その瞬間! ドアが開いた!
事務所のドアを開け、すかさず中に入って、閉める。
心臓は、ドクドクと・・ものすごい早さで鼓動する。
あの・・・足音・・・。
それから、何時間が経っただろう・・・。
あれ以来、奇怪な現象というのは、起こってはいない。
夕方の5時になると、どこからか、謎の音楽が流れているけれど、その音に気づく人は少ない。
それに、その音は、たぶん、終業時間で鳴る時計か何かのアラームのようである。
あれから、休憩所は、新しいガラスのドアがつけられて、外からも誰がいるのか、わかるようになった。
そして、あのテーブルは、5時以降でも使っていいような形になった。
あの足音の正体は、わからないまま、私は仕事を辞めてしまった。
わからないほうが、いいこともある。
ひとけがなくなると・・・小さな音でも、大きな音になって聞こえることがありませんか?
普段は、人が多いから気づかないのに、誰もいないと、自分の足音でさえも、妙に怖さを感じてしまうものです。
それが、自分の足音ではない時・・・その真実を受け止めることはできますか?